#恋ボク 執筆裏話 8話 〜京都においでやす〜

2018年3月20日に大坂で「人生で一番美味しかった牛肉」を食べてから1ヶ月が経過しようとしていた。
「大賞になるかもしれません」と高級料理店の耳元で囁かれたものの、その後、一向に正式な連絡はなかった。

芥川賞の結果を待つ太宰治かのような、神妙な心持ちは一切なく、ほぼ忘れていた。

大阪の会食から時を経ずして、次は「4月に京都で会食があります」とお誘いが来た。
大阪の次は京都!
なんて日だ!!

こういう時に「あいにく仕事が入っておりまして…」なんて断るやつは大抵イマイチなので、

「行きます!」と即答した。

後日、ご丁寧に自宅に招待状が届いた。(こんなの初めて)

僕の人生で「関西」は縁もゆかりもない。学生時代は中学時代の修学旅行でしか足を踏み入れたことはない。社会人になってからも、僕は経営企画部という内勤ばかりだったので「新幹線で関西出張」という営業部門の人たちに憧れたものである。

30代の某社CFO時代にM&Aの案件とやらで、2件ほど大阪の企業を買収した。一つは未上場企業で社員5名程度で西中島南方にあった。もう一つは大証2部の上場企業で堺筋本町近くにあり、「TOB」とやらを使って結構大掛かりな買収だった。

月イチで大阪訪問を2年ぐらいやっただろうか。
ここで詳細の説明は省くけれど、ハッキリ言って「ロクな思い出」が残らなかった。しかもそれは誰とも共有できないようなものだった。

でも今回は違う。
まず牛肉が美味かった。
そして、次は大阪ではなく京都である。

京都には一度だけ、日帰りで任天堂さんにお伺いした記憶がある。
病院みたいな建物だった。
仕入れ部門の有名な部長さんとの商談だったけど、記憶に無いぐらいスベった。

今回は違う。何か大きな流れに巻き込まれるように、京都に呼ばれたのだ。

「もうTOKYO(東京)には疲れたろうに。関西に、おいでやす」と京の神様に言われている気がした。

2018年4月3日。
「舞妓さん」が入ってくるようなお座敷だった。
2階のお座敷で、和室の窓からは花街に咲く桜が見えた。

 

15人ほどの宴で僕以外にも東京から5人ほど、若い社長さんみたいな方々が招待されているようだった。
隣に舞妓さんが座るものの、終始、恐縮するような空気感の中、時は過ぎた。
ホタルイカの鍋がとても美味しかった。

せっかく京都に来たので、明日は一人で「神社巡り」でもしようと思った。今回の件は間違いなく神様から「おいでやす」と言われたに違いないので、お礼にいかなくては。

TOKYOの都会に疲れていたこともあって、京都の神社に癒やされようかと思ったら、主要な観光スポットは外国人観光客でごった返していて、東京の銀座以上に息苦しさを感じてしまった。

「京都も癒やされない土地になってしまったな…」

早朝にシティホテルを出て、気づくと人混みを避け、行くあてもなく、北へ北へと敗走していった。
気づいたら「鞍馬山」の麓に来ていた。

大きな天狗が待ち構えていた。
「おいでやす」

 

<つづく>